「はー、なんや結構おどろかしてもろたな。自分も、なかなか怖かったんとちゃう?」
暗く狭いセットから解放されて、眩しい真夏の陽ざしの中へ無事生還したことに安堵しながら、
前髪を無造作に掻き上げ、そっと傍らの少女を見下ろし、なるべく明るく声をかけた。
夏ちゅうたら、オバケ。
夏の遊園地ちゅうたら、やっぱオバケ屋敷やろ!
オレはオバケなんか信じてへんけど、女の子と一緒ならやっぱ定番やんか?
それでも、屋敷内の人形達はどれもグロテスクで気持ち悪いもんばっかりやったし。
普通、女の子は恐がりやから、そういうの見てキャーゆうて抱きついてきたりもするもんやしな!
まあ、それが一番の楽しみっちゅうのもあんねんけど……。
「………うん、怖かったね。」
視線の先の少女は、胸にじっと手を重ねて、呼吸をゆっくりと整えているようだった。
なんや、自分かてそないに怖かったんやん。
「ホント。叫びすぎで、喉がかれちゃいそうだよ。」
そう言って、ようやく青白い顔を上げて姫条を真っ直ぐに見つめ、ニッコリと微笑んだ。
「おおきに、おおきに、怖がってくれな、ここに来た意味ないからなぁ。
それに……なあ、ろくろ首の脇に、やけに青白い顔した女の子、おらんかった?」
「えっ?」
少女の顔がみるみる青ざめていく……。
「アハハ!!ウソやん!
ちゃん、そないに怖かったんなら、手ぇだけやのうて、
オレにぎゅーっと抱きついてきてくれてもよかったんやで?」
こいつは、さすがに抱きついてきてはくれへんかったけど、
途中で手を握ってきてくれたことが嬉しくて、それとなく伝えてみる。
「やだ!姫条君たら!そんなことできるわけないでしょ!
それに、手って……なんのこと?」
そうそう!次は遠慮無くぎゅーっとな!って……え?今なんて?
「またまた!しらばっくれてからに、この〜。自分ずっと、オレの手握ってたやんv」
はぶんぶんと頭を振って、
「に、握ってないよ!!」
と、慌てて否定する。
え?
「いややなあ、
ちゃん。そないに照れんでも!ほれ、ろくろ首のとこで……な?」
「……ろくろ首?それ……わたしじゃない……。」
「ウソやん?そ、そしたら、あのひんやりした手ぇは……。」
言いかけてハッと気づく。
は真っ直ぐに姫条を見つめていた。
この眼差しに嘘はない。
「ア、アカン、ま、まあオレの勘違いかも知れへんし……つ、次行こ!次!!」
姫条はよろよろと
の細い肩を引き寄せ、明るい広場の方へと促した。
「……う、うん。」
は何か言いたそうだったが、この時のオレはとにかく早くその場から離れたかったのだ。
・・・・・・
「アハハ……そないなこともあったかなーっと……。」
「ほんと、
って、案外恐がりなんだから!!」
「ハハハ……自分、ホンマつまらんことばっかり覚えてよってからに……。」
狭い観覧車の中で膝をくっつけ合いながら、正面で笑っている少女を軽くにらみつける。
たしなめるように、愛おしむように……。
ホンマ、こいつにはかなわんで……。
あれは夏の話。
今はもう陽ざしも弱くなり、観覧車の窓から見える景色も少し色づきはじめていた。
ごとん……と音を立てて、観覧車が揺れた。
周りを見回していたオレが視線を少女に戻すと、先程の笑顔は消え失せ、
真剣な表情で真っ直ぐにオレを見つめていた。
どきん。
も、もしかして……いよいよ愛の告白ですかー?
いや、違う。
オレやのうて、オレの肩辺りを……。
「
……ちゃん?」
「あ、うん。……あのね、
にも……”見えた”の?」
「ん?見えた、て……なにが?」
「あのね、あの時……ほら、ろくろ首のところで……。」
「ああ、アレかいな。スマンな、アレは自分驚かそう思て、ツイでまかせを……。」
「……そっか。」
は少しガッカリした風にうつむいた。
えっ!?なんでそんなリアクションなん?……ちょ、ちょお待ってくれ!!
「ちょい待ちぃ、今、『オレにも』……言うたな?てことは……自分……。」
「えへへ。実はね、”見える”んだ、わたし。」
「”見える”て……ウソやろ?」
自分、『えへへ』やないで!!!
みるみる背筋が寒くなるのを感じた。
これは日が傾いてきたせいやない、ホ、ホンマに見えるんやろか?
「やだ、わたし。こんな話……ビックリしたでしょ?ゴメンナサイ。」
「いや、かまへんよ。ひょっとして、オレの守護霊とかってのも見えてたりして!?」
オレはアハハハ!と笑い飛ばしたかった。
それやのに、それやのに……!!
「……うん。」
マジかい!
「
にも……いつもキレイな女の人が……。」
ギク!!
「ちょ!ちょいまって!!や、やっぱりええわ!あ、いやその、自分のこと信じとるから!」
「う、うん。ありがと。」
女の霊やなんて……どこのどいつのことやっ!?
霊て、生き霊なんてのもあるんやったな?
思い当たるフシが多すぎて、オレの頭はぐるぐるとパニック状態。
観覧車を降りてから、何を見て、どうやって帰ってきたのか、どうしても思い出せないくらいだった……。
・・・・・・
(あれ……?何か落ちてる。
写真だ……。それも、かなり古い物みたい。)
教室の移動中に、廊下で紙切れを見つけた。
拾い上げてみると、それは古い写真だった。
「あ、この人だ……。」
「おっ、
!
ちょうどよかったわ。
この辺に……あっ、それや、それ!その写真を探しとってん。」
「ゴメン、見ちゃったけど……。これ、
が小さい頃の写真でしょ?
この人……お母さん?」
「ああ。オフクロがまだ生きとったころの写真や。……今さら気なんかつかわんといてや。
……て自分、ようわかったな?」
「うん、まあね!」
きょとんとしている彼を見上げて、うふふと自然と笑みがこぼれる。
彼は不思議そうにしているけれど、だってわたしは嬉しくて仕方がないのだ。
(良かったね、
。
今でもお母さんがアナタのこと、ずっと見守ってるんだよ……。)
*………………………*
このお話は、「もしも主人公ちゃんが『霊感少女』だったら」…という設定です。
実際いたらば、おもいっきり引かれてしまいそうですが……。
オバケ屋敷のシチュは、タイピングの方でもお話がありました。
それらとはちょっと観点をずらして見た、アナザーワールドのお話です。
いかがでしたでしょうか?
まどかちゃんに、女性の生き霊……うーん、いっぱいついてそうだ(^^;;