ハッピーバースデー☆2005.6.18


「ありがとうございましたー!」
ピカピカに磨かれた客の車を見送り、深々と下げていた頭を上げて、忙しく帽子をかぶり直しながら、何気なく街路樹の方を振り返った少年が、その一点に釘付けになって立ち止まった。
赤い傘を差した小さな人影が、街路樹の影から見え隠れしている。
少年にはその赤い傘にどことなく見覚えがあった。
少年は、一旦奥へ駆け足で戻ると、すぐに戻ってきて、小さくうずくまる赤い傘に声を掛けた。

「……あの、どないされたんですか?」
「……あっ、 !!」
赤い傘の少女がびっくりして飛び上がった。
「おっ! やん!やっぱりや!」
姫条は驚いた。
うずくまっていた少女が突然立ち上がったことに。
そして、傘の持ち主が記憶通りの少女だったことに。

「ひっさしぶりやなぁv元気にしとる?」
「うん、 、仕事……は?」
「ああ、今店長に休憩もろて来たとこや。大丈夫やで。」
「そっか、ごめん、わざわざ……。」
「それより……どないしたん今日は?」
「あっ、あのね……。」
慌てて持ち物を探る少女の肘についた泥を見つけて、改めて全身を眺めた。
「なんや!自分、泥だらけやん!」
「えっ!?あっ!!さっきそこで転んだから……。」
そう言って慌ててスカートの裾の泥をはらう
「ぷっっ!!!」
笑ってはいけないとは分かっているが、堪えきれずに吹き出してしまった。
「自分ホンマどんくさいねんな!そんなとこ、全然変わってへんわ!」
「もー!そんなに笑う事ないじゃない!」
おかしそうに笑う姫条に、恥ずかしさで真っ赤になり、ぷうっとふくれる
(ホンマ、自分てかわいいわ。)
「スマンスマン。いや、そのまんまやったらシミになったりしてアカンから、ちょっとこっち来ぃ!」
「えっ?…… !?」
細い手首を掴んで、従業員控え室へと連れて行く。
途中、同僚とすれ違って、ヒューヒューと冷やかされたりしながら。


「さ、スカートのシミはこれでええやろ。」
スカートのシミ抜きをテキパキとこなす姫条の手元を、 はただぼうっとしながら眺めていた。
日に焼けた大きな手とか、柔らかそうな前髪とか、長いまつげとか、
窓から差し込む光に浮かび上がった頬の産毛とか…。
顔を上げた姫条の瞳と目があって、突然現実へ引き戻される。
「後は自分で拭きや?かわいい膝小僧とかまだ泥付いてんで。」
「う、うん。ありがと。」
は姫条から渡された新しいおしぼりを広げて、腕や足についた泥を拭った。
「コーヒーでええか?」
「えっ?うん!いいの?」
手渡された缶コーヒー。ほんのり温かかった。
「かまへんで!今日は雨降りやし、冷たくない方がエエかと思て……人肌でスマンけど。」
そう言いながらズボンのポケットからもう一つ缶コーヒーを出して見せた。
「やだあ! たら!」
「ハハハ、冗談やって!」
笑いあう二人。
殺風景な部屋に柔らかな空気が漂う……。

「で、今日はどないしたん?」
そう聞かれて、あっと声を上げる
持ってきていた紙袋をがさごそと探り、リボンのかかった包みを取り出した。
!お誕生日、おめでとう!!」
「えっ!?あ、そやった!誕生日やったな。自分覚えててくれたんか?」
「うん、もちろんだよ!毎年プレゼント渡していたでしょう?はい、今年もプレゼント!」
、それ渡すためにわざわざ?……ありがとう。今年もまたもらえるとは思うてへんかったわ。あ、開けてみてもええか?」
「どうぞどうぞ!」
キレイに包まれたリボンと包装紙を丁寧にはがして、中の箱を開ける。
「おっ!美味そうなおっきなタコ焼きー!……とちゃうな?これ。」
箱の中には、タコ焼きのように見えるが、形がいびつで大きすぎる物体が2つ入っていた。
「……えへへ。それね、シュークリームなの。『タコ焼きシュークリーム』」
「どっちやねん!!自分、ホンマオモロいやっちゃな!……てか、これまさか中におたふくソースとか入っとるー!なんて言わんやろな?」
「まさか!ちゃんとカスタードクリームだよ!上にかかってるのはチョコレートなんだから!……実はね、たくさん作ってみたんだけど、成功したのはその2つだけだったんだ……ゴメンね。」
「そんなん無茶苦茶やるからや!普通に作ったったらええのに。」
「だって、ウケるかなーと思って……。」
(ウケ狙いかい!自分、ホンマオモロいわ。)
「……ありがとうな。『タコ焼きシュークリーム』、大事にいただくわ。」
「うん!あ、ごめんね。仕事のジャマしちゃって……私、そろそろ行くね?」
「あ、 。その……今日はバイトで抜けられへんのやけど。明日……ヒマやったらどこか行かへん?せっかくやし……な?」

扉を開けると、外の雨はすっかり上がっていた。
赤い傘をたたんで、小さな手をひらひらとふる少女を見送った。
卒業式に別れてから早三ヶ月。
ゆっくりだけれど、何か始まりそうな……そんな予感のする空だった。




*………………………*
まどかちゃん、19歳のお誕生日、おめでとう〜っvv
卒業式の日にも告白しそびれた感じの二人の再会……というお話でした。

なんとか間に合わせようと、日付の変わるギリギリに書き上げましたが、なんか色々ダメダメで、ダメすぎて…。
なんともお粗末なモノになってしまいましたが…いいんだい!(いいのか?)
とにかく姫条まどかくんへの愛はまだまだ不滅ってことで!orz