「ありがとうございましたー!」
ピカピカに磨かれた客の車を見送り、深々と下げていた頭を上げて、忙しく帽子をかぶり直しながら、何気なく街路樹の方を振り返った少年が、その一点に釘付けになって立ち止まった。
赤い傘を差した小さな人影が、街路樹の影から見え隠れしている。
少年にはその赤い傘にどことなく見覚えがあった。
少年は、一旦奥へ駆け足で戻ると、すぐに戻ってきて、小さくうずくまる赤い傘に声を掛けた。
「……あの、どないされたんですか?」
「……あっ、
!!」
赤い傘の少女がびっくりして飛び上がった。
「おっ!
やん!やっぱりや!」
姫条は驚いた。
うずくまっていた少女が突然立ち上がったことに。
そして、傘の持ち主が記憶通りの少女だったことに。
「ひっさしぶりやなぁv元気にしとる?」
「うん、
、仕事……は?」
「ああ、今店長に休憩もろて来たとこや。大丈夫やで。」
「そっか、ごめん、わざわざ……。」
「それより……どないしたん今日は?」
「あっ、あのね……。」
慌てて持ち物を探る少女の肘についた泥を見つけて、改めて全身を眺めた。
「なんや!自分、泥だらけやん!」
「えっ!?あっ!!さっきそこで転んだから……。」
そう言って慌ててスカートの裾の泥をはらう
。
「ぷっっ!!!」
笑ってはいけないとは分かっているが、堪えきれずに吹き出してしまった。
「自分ホンマどんくさいねんな!そんなとこ、全然変わってへんわ!」
「もー!そんなに笑う事ないじゃない!」
おかしそうに笑う姫条に、恥ずかしさで真っ赤になり、ぷうっとふくれる
。
(ホンマ、自分てかわいいわ。)
「スマンスマン。いや、そのまんまやったらシミになったりしてアカンから、ちょっとこっち来ぃ!」
「えっ?……
!?」
細い手首を掴んで、従業員控え室へと連れて行く。
途中、同僚とすれ違って、ヒューヒューと冷やかされたりしながら。
「さ、スカートのシミはこれでええやろ。」
スカートのシミ抜きをテキパキとこなす姫条の手元を、
はただぼうっとしながら眺めていた。
日に焼けた大きな手とか、柔らかそうな前髪とか、長いまつげとか、
窓から差し込む光に浮かび上がった頬の産毛とか…。
顔を上げた姫条の瞳と目があって、突然現実へ引き戻される。
「後は自分で拭きや?かわいい膝小僧とかまだ泥付いてんで。」
「う、うん。ありがと。」
は姫条から渡された新しいおしぼりを広げて、腕や足についた泥を拭った。
「コーヒーでええか?」
「えっ?うん!いいの?」
手渡された缶コーヒー。ほんのり温かかった。
「かまへんで!今日は雨降りやし、冷たくない方がエエかと思て……人肌でスマンけど。」
そう言いながらズボンのポケットからもう一つ缶コーヒーを出して見せた。
「やだあ!
たら!」
「ハハハ、冗談やって!」
笑いあう二人。
殺風景な部屋に柔らかな空気が漂う……。
「で、今日はどないしたん?」
そう聞かれて、あっと声を上げる
。
持ってきていた紙袋をがさごそと探り、リボンのかかった包みを取り出した。
「
!お誕生日、おめでとう!!」
「えっ!?あ、そやった!誕生日やったな。自分覚えててくれたんか?」
「うん、もちろんだよ!毎年プレゼント渡していたでしょう?はい、今年もプレゼント!」
「
、それ渡すためにわざわざ?……ありがとう。今年もまたもらえるとは思うてへんかったわ。あ、開けてみてもええか?」
「どうぞどうぞ!」
キレイに包まれたリボンと包装紙を丁寧にはがして、中の箱を開ける。
「おっ!美味そうなおっきなタコ焼きー!……とちゃうな?これ。」
箱の中には、タコ焼きのように見えるが、形がいびつで大きすぎる物体が2つ入っていた。
「……えへへ。それね、シュークリームなの。『タコ焼きシュークリーム』」
「どっちやねん!!自分、ホンマオモロいやっちゃな!……てか、これまさか中におたふくソースとか入っとるー!なんて言わんやろな?」
「まさか!ちゃんとカスタードクリームだよ!上にかかってるのはチョコレートなんだから!……実はね、たくさん作ってみたんだけど、成功したのはその2つだけだったんだ……ゴメンね。」
「そんなん無茶苦茶やるからや!普通に作ったったらええのに。」
「だって、ウケるかなーと思って……。」
(ウケ狙いかい!自分、ホンマオモロいわ。)
「……ありがとうな。『タコ焼きシュークリーム』、大事にいただくわ。」
「うん!あ、ごめんね。仕事のジャマしちゃって……私、そろそろ行くね?」
「あ、
。その……今日はバイトで抜けられへんのやけど。明日……ヒマやったらどこか行かへん?せっかくやし……な?」
扉を開けると、外の雨はすっかり上がっていた。
赤い傘をたたんで、小さな手をひらひらとふる少女を見送った。
卒業式に別れてから早三ヶ月。
ゆっくりだけれど、何か始まりそうな……そんな予感のする空だった。
*………………………*
まどかちゃん、19歳のお誕生日、おめでとう〜っvv
卒業式の日にも告白しそびれた感じの二人の再会……というお話でした。
なんとか間に合わせようと、日付の変わるギリギリに書き上げましたが、なんか色々ダメダメで、ダメすぎて…。
なんともお粗末なモノになってしまいましたが…いいんだい!(いいのか?)
とにかく姫条まどかくんへの愛はまだまだ不滅ってことで!orz