「アレッ!?なーんだ、姫条じゃん!今帰り?」
「おっ、なんや、藤井か…」
「なんやって、なによー!」
「アハハハ…」
校門出てすぐの坂のところ。
海を見渡せるその場所で、オレはぼんやり暮れゆく空を眺めていた。
突然、後ろから声をかけられ、はっとなり振り返ると、
髪をアップに結った、いたずらっぽい笑顔の少女が立っていた…。
驚きと期待に胸が高鳴り…しかし、すぐに消沈。
それを敏感に感じ取ってか、藤井と呼ばれた少女はぷうっとふくれた。
「ナニナニ!?もしかして、誰かと待ち合わせ?」
「そういう訳やないんやけど…な?」
「…ふうん」
いぶかしげにオレの顔をのぞき込み、目を細めると、あたりを見渡す藤井。
「あっ!ヒメーー!!」
藤井は振り返り、下校する生徒たちの中から誰かを見つけたのか、伸び上がって手を振った。
(えっ!?)
どきん。高鳴る鼓動…。
呼ばれて顔を上げた少女が、小さく手を振りながら駆け寄ってきた。
…アイツや!
「なんや、藤井、アイツのことヒメって呼んでんの?」
「あれっ?姫条、知らなかった?
あの子クラス違うけど友達なんだー…って、なーに赤くなってんの?アヤシイ…」
「なつみん!あっ、姫条くんも、今帰り?」
「ねえねえ、ヒメ!こいつヒメのこと見て赤くなってんのー」
「べ、別に赤くなんてなってへんやん!ゆ…夕陽のせいやろ?!」
「あははー!まーたすぐムキになるー!」
追いついて一息ついた少女が二人を交互に見ながら、くすっと笑った。
「相変わらず、仲良いんだねーふたりは…」
「ちょ…!!!!
待てや!そ、そんなんじゃないねん!!」
「まあ、いいや、ね!一緒に帰ろう?」
「うん!あっ…と言いたいところだけど…今日はこれからバイトでさー。
ゴメン!」
よっしゃ!藤井!勤労少女のカガミ!
自分、エラいで!!…イテッ!!!
「…今日のところは、ゆずったげるけど…アタシの友達に変なことしないでよ!?」
「いらん心配すんなや!どっから見てもジェントルマンやっちゅうねん!」
「どうだか…じゃね、ヒメー!また明日ね!」
「うん、バイト頑張ってねー!」
手を振って去ってゆく少女の後ろ姿を見送り、ふと顔を見合わせる二人。
「…あ、実はオレ…自分、待っとってん」
「えっ、そうだったの?!…じゃあ、一緒に帰ろうよ!」
「ハハ、なんやドキドキしてもうた。ほな、行こか」
「うん!」
二人で肩を並べて歩く…
今日学校であったことや、昨日観たTVのこととか、
他愛もない話をしながら…。
オレは、隣の少女の桜色の頬に落ちるまつげの陰とか、
柔らかそうな髪のつむじとか眺めながら、
この道がずっと続けばいいと思った…。